雇用し維持し続けることの難しさと、雇用に関する考え方の相違。これからの雇用について。

その他

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先日の勉強会の場でも出てきた今回のテーマ「雇用」なんですが、一般的な中小企業とうちのようなデザイン事務所とでは雇用に関して大きく違いがあります。
デザイン事務所視点の内容ではありますが、その辺りをまとめてみたいと思います。

将来独立して、一人でも食っていけることを前提とした雇用

日本においての雇用は、一般的に終身雇用を前提としたものだと思います。
近年こそ、キャリアアップも含めた転職前提で就職する方もいますし、採用する側としてもある程度想定はしていると思いますが、それにしてもいずれかの企業において雇用され、安定した給与をもらい、社会保険を始めとした福利厚生を与えられ、基本的には企業人として終えることになると思います。
ごく一部は独立して起業される方や、全く別の仕事につかれる方もおられますが。

しかし、デザイン事務所において、多くの場合終始雇用前提ではないので、その雇用の仕方自体がちょっと特殊だったりします。

  • いつかは独立する
  • そのためには数年〜十数年で独立してやっていけるだけのスキル(技術、営業、財務)を身につけてもらう
  • 円満退職であれば、軌道に乗るまでは外部ブレインとして契約する

といった流れがあるのではないでしょうか?

結局デザイン事務所において、その多くは分業制になっているとはいえ、ディレクターやプロデューサーと言った立場になるような人であれば、ひと通りの知識は身につけておく必要があります。

特にウェブ業界であれば、デザインが出来ます、コーディングができますというスキルなんて10年後に役立つかといえば、若い人でもない限りかなり厳しいと感じます。
デバイスも変わりますし、技術的な要素がデザインに与える影響力も年々高まっていますし、プログラミングや広告の運用、SEOなど、幅広い知識を求められることが非常に多いものです。

そのためには将来自身がどういったポジションに居るべきなのか、入社時から見据えて行動する必要性がありますし、それに対して雇用側が協力できる仕組みづくりをしておく必要があります。

ライフスタイルと雇用と給与システム

あくまでもうちの場合ですが、雇用に関してはこのように考えています。

業界として、長時間労働、休みの不定期さなどもあるのですが、それらを無理に変えるのではなく、勤務体制自体を柔軟にすることで、スタッフ、お客さん、経営者としてのより良いバランスの取り方を模索したいと考えています。

従来の残業時間がいくら、休日出勤がいくら、諸手当がいくらといった足し算引き算による考えではなく、あくまでも自分がやったことに対する評価として年棒制の導入。
結果さえ出せば、その過程においては自分の判断で自由にすればいい。
例えば自分の給料で払うのであれば、在宅勤務で外注さんにお願いして、自分は遊んでいても、副業で稼いでいてもOK。

残業や休日出勤などによる給与増ではなく、年棒制の導入で、自身の結果に見合った給与を支払うかたちにすれば、会社としては年間で必要な人件費はあらかた予想がつくので経営しやすいのでは、と考えました。
また、やったことがそのまま翌年の給与に反映されるので、だらだら長時間働くよりも、短時間で結果を出すほうがスタッフのモチベーションと仕事のクオリティにも繋がります。

どうしても家庭の事情で働けない場合は、年俸も下がりますが、その事情(子どもが生まれた、離婚した、介護など)に合わせて諸手当を支給することで、バランスが取れたらなぁ、と考えていました。
従来の働き方(休暇のとり方や勤務時間など)や給与体系(残業や年齢、能力によるもの)では経営側も雇用される側も十分納得の行くものは出せないのでは、と考えています。

お金が欲しければそれだけの成果を出せばいいし、時間が欲しければ報酬は大幅に減るけど、自分の好きな働き方が出来る、会社自体がスタッフにとってのベーシックインカム的な働きになってもいいのでは、と考えます。

あくまでも理想なので現実化にはハードルはあると思いますが、非現実的なものではないと思います。

将来独立するという前提なので、会社そのものがベーシックインカム的な働きになればいいのではという考えです。
仕事は一人で行うものではなく、複数の人間を巻き込んでいくものです。
だらだらと残業をしてそれを成果とするよりも、短時間で結果を出せる方が効率のよい働きができる、短時間で結果を出すにはそれだけまわりとのコミュニケーションも必要であり、それが社内のモチベーションに繋がるのではと考えました。

うちのような零細企業は当然のことながら、大手企業であっても数年後はどうなるのかさっぱりわかりません。
その時になって慌てるのではなく、普段から働き方の柔軟性を保てる仕組みづくりを考えていました。
実現する前にスタッフの雇用をやめているので、現時点ではまだ理想像に過ぎませんけどね。

手段が目的にならないことが大事

冗談みたいな話ですが「営業成績を前年度より20%伸ばすためにはどうするべきか?」というものに対して「現在10件回っているのを12件にすればいい!」みたいな解決法を真剣に議論するところがあります。
それではただ疲労困憊するだけであって、顧客満足度を向上させるものではありませんから、結果として社員の不満が増えて離職率が上がっただけで、売上も利益も変わらない、といったことになりかねません。
給料を増やすためには労働時間を伸ばせばいい、残業/休日出勤すればいい、という馬鹿げた話ではなく、作業を効率化し全体の業務の歩留まり良くするほうが会社全体としての売上や利益の向上につながると考えるべきで、そのためにはどんな施策をすればよいか、となるわけです。
社員に対してそんなことを求めるのは無理な話だ、という経営者もおられますが、そういった考えができるようにならなくては社員にとっても会社にとってもいい結果にはならないような気がします。
自分たちの創意工夫で会社の売上や利益が向上すれば、それはモチベーションにも繋がりますし、社内のコミュニケーション活性化などにも繋がると思うんですけどね。
なかなか現実は難しい、といったところです。

雇用ではなくパートナーという考え

大手のデザイン事務所などはどうかわかりませんが、零細事務所の多くは雇用と言いながらもパートナーに近い形のところが多いはずです。
上司、部下という関係よりも先輩後輩のような部活乗りの関係であったり、雇用ではなく個人事業主としての契約(ちょっとグレーなところですが)なんかもよくある話です。
スタッフが10人いる会社であっても、社員は役員含めて3人程度で、ほとんどが個人事業主としての契約になっているところもあります。
そういったところは確定申告とかどうしてるんでしょうね?

しかし、金銭や仕事のバランスだけを考えるのであれば、上記のような雇用形態は悪いものではないと思いますし、会社にとっても負担の少ないいいものだと思います。
正社員ではないので、結婚や住宅、車のローンが・・・というところもありますが、個人事業主で青色申告を3年も続けて赤字さえ出していなければ、ほぼ問題なく通るレベルだと思います。
パソコンやセミナー、出張費などは会社負担なわけですから、ほぼ100%自分の生活に突っ込めるわけですし、理想的だと思いますね。
仮に勤続5年目以降は個人事業主としての契約になります、という話を事前にしておけば、それに向かって社員も動くはずです。

経営者になってわかったこと

雇用される側だった時は当時の事務所に対してイロイロ不満がありましたが、経営者の立場になると「あぁ、そういうことなんだなぁ。。」と理解できるようになりました。
当時の社長もいろいろ考えた上での対応だったわけですし、なかなか立場上言い出せないことも多かったんだろうな、と思います。
社会保険も労災もない事務所でしたから、角膜潰瘍や狭心症なども過労とストレスによるものですが、当然のそれに対する保証などはありませんでした。
同僚の女性が倒れた時も、その後の話によると女性の両親と労災についてかなりもめたそうです。

そういったことがあったので、うちとしては当然加入しているわけですが、経営者としては特に社会保険は痛い。
であるならば、給与体系や労働条件、雇用形態などを見なおして、できるだけ支出を抑えたい、となります。
その結果が個人事業主としての契約、ということになるわけですけどね。

雇用を維持し続けるには、会社の規模や資金繰りなど、もっとこうしてあげたいと思う反面、どうしても削らざるをえないことも大いに有り得るんだんと理解しました。

最後に

理想と現実は難しい、これは経営者になって本当に実感しています。
今は一人なので気楽なもんですが、ネットショップを始めるにあたって、今すぐではないにしても企画や制作、配送業務などを手伝ってくれるようなスタッフをまずはバイトで募集出来るようになればな、と考えています。
当面は僕と妻の二人で対応になりますが、本業もありますから100%張り付くわけにもいきませんしね。

その場合はなにも独立してもらうことを考えるのではなく、お店をより良くするためのディレクター、プロデューサー、プランナーとして将来は関わってほしい、ということになります。
うちが多くの方に自慢できるようなお店になれば、キャリアアップとしてもっと大手さんへ行く可能性もありますが、それでもうちのお店で働いてみたいと思ってもらえるような環境づくりを考えたいと思います。